マリーゴールドに寄せて

アザレア工房では花の柔らかさや透明感を出すのに適したクレープペーパーや和紙といった材料は使

わずに、ファインペーパーという洋紙を使っています。この洋紙を使って、どうやって柔らかさを出

そうか、その花らしさをだそうか、と考えるのも楽しいものです。

今回は昨秋につくったまま、なかなか仕上げが決まらないでいる花をご紹介です。

マリーゴールド

なんとなく道路脇や公園の花壇の縁取りにあったような気がするといった印象しかありませんでし

た。花期が初夏から秋までと長いわりには印象が薄いんですね。同じ夏に咲く花でもヒマワリなら

夏休みの光景や田舎に遊びに行ったことなどと一緒に思い出すのに、マリーゴールドは思い出がなく

て。最近は香りの良い花として紹介されていますが、私の記憶にあるのはなんとも独特な匂いだった

ような。盛夏にビタミンカラーが元気に咲いているのも暑苦しく、以前はどちらかといえば苦手な花

でした。

それが一転したのはメキシコに住んでからでした。

からりと湿度の低い空気、青い空、照りつける太陽で目に痛いほど光る芝の緑色。ブーゲンビリアの

鮮やかな赤紫、微妙なニュアンスカラーの対極の色が集まった景色の中でマリーゴールドの艶やかな

オレンジや黄色がとても美しいことに気づきました。

映画「リメンバー・ミー」で日本でも有名になりましたが、メキシコでは「死者の日」にマリーゴー

ルドは欠かせません。ご先祖様が迷わずに現世に戻ってくるための道標、オフレンダという祭壇にた

っぷり飾り、前にも花びらを厚く敷き詰めて道のようにするのです。ろうそくの灯りを受け自らもラ

ンタンのように辺りを照しているかのような花を見て、今までの印象が一変しました。

リアル寄りの花?アートな花?

最初に書いたように、アザレア工房は洋紙を材料にしています。つけたカールがとれにくい反面、リ

アルの花が持つ柔らかさや透明感などを出すにはハードルが高い材料です。

逆に、洋紙の質感や硬さをうまく使うことでアート感溢れる花が作れる利点もあり、花をデザインす

る際は、そのあたりも納得いくまで考えて手を動かすことにしています。

正直いって、本物そっくりを目指すなら本物を一輪バラバラにして逐一型取りをすれば済むのです。

この型紙をカッティングプロッタに仕込み花弁を量産、絵の具で一枚ずつ色を入れ、貼り合わせてい

けば再現可能…。本当にそうでしょうか? 実は7、8年ほど前に一番多く作っているバラでチャレ

ンジしたことがあるんです。結果はうっすらと予想していた通り、私が使う洋紙では無理、完成しま

せんでした。 いやぁ、無駄なチャレンジだったなと思います。

では洋紙ではリアル寄りの花は作れない? なんとなくそれっぽい形にはなるけど、嘘くさい花しか

作れない? アザレア工房の花を誉めてくださる方は増えてきたけれど、自分の中には同時にモヤモ

ヤも広がった時期があります。 このモヤモヤがなくなったのは数年前、何がきっかけだったか忘れま

したが、花をデザインする際にその花を多方面から分析するようになってからです。

この辺りの話はいつかまたするとして。

今回作ったマリーゴールドは考えた末に、あの懐かしい光景を身近に感じられるような花にしたいと

思いリアル寄りにしています。どんなふうに仕上げるかは迷い中、いい加減にしないと今年の「死者

の日」に間に合わなくなりそう!